新宿SOHO

地層をイメージした荒々しい外観

DATA

敷地は新宿と飯田橋の中間地点にあたる牛込原町にある。
江戸時代には、武家地・寺社地として下町情緒のある界隈であった。今も寺社の森が点在し、近くには古くから営む小さな印刷所があり、昔ながらの家が残るなど下町の風情を残している。一方で大久保通り沿いには高層マンション建ち並び、神社の森と新旧の対比を見せている。敷地はその大通りから一本入った袋小路の私道に面していて、戸建て住宅やアパートなど10軒程が密集して建っている。
クライアントは敷地面積が60㎡弱の小さな土地を購入し、会社の拠点機能と住宅機能を兼ね備えた建物を作り、そこから世界に向けて情報発信をしようと考えた。
仕事とプライベートの境が無く24時間仕事と向き合う特異な生活形態を反映して、今計画も仕事場と住まいの境が無い建物になっている。
会社としては社員数が相当数いるもののコロナ以前から全員がリモートワークで執務をしていて、ごく稀に対面で会議をする程度であるとのことだ。
一般的な住まいの機能のみならず、ある時は職場であり、ある時は住まいであり、ある時はメディアスタジオにもなるフレキシブルなプログラムが要求された。
同時に会社の拠点機能を持つ建築として力強い個性と存在感を示すために、どのような建築であるべきなのかを模索することとなった。
前面道路は幅員4mで、道路斜線によって3階程度の高さに抑えられることになる。そこで天空率を駆使し建物形状の検討を重ね、建物の両サイドを欠き取ることでできる限り高さを確保することにした。幅員の狭い前面道路からは建物を仰ぎ見る形となり、空に聳え立つ凛とした佇まいの建築になる。そして近代的なビルではなく、石切場か遺跡のような長い時間軸に寄り添う建築、未来もこの場に静かに存在し続ける姿が相応しいと考えた。
道路に面する壁は特殊型枠によって地層のような荒々しい表情を作り、立体的に樹木を配して地層の上に緑が自然に植生したような姿をイメージした。その他の隣家に面する3面は、外断熱を採用し、内部空間がコンクリートの躯体のみの力強い表現となるようにした。
建築面積は34㎡強で、その中に階段室とエレベーターを配置し、残りのわずかなスペースを居住と執務スペースに充てている。
想定の用途として1階がスタジオ、2階がメインの執務スペース、3階が寝室(プライベートスペース)、4階が兼用のダイニング・キッチン、5階が執務・休憩スペースとした。3階のみが完全なプライベートスペースである。
1・2階の吹き抜け空間は大きな開口部を設けることで、内部からまちの人達の往来が見え、逆にまちからも内部の様子が見え、積極的にまちと繋がるようにした。1階の床を道路より80㎝掘り下げ、まちと適度な距離感を作った。
メインの執務スペースである2階は吹抜けを介して一番奥に設け、広がりが感じられるようにした。
3階はプライベートスペースであるが、3・4階を縦方向の連窓とし、適度な壁によりプライバシーを確保しながら外観に統一感を持たせた。5階の休憩スペースは周辺建物の上方に抜けが期待できるため横連窓を設け、遠方の都市的な風景や近くの寺社の緑が楽しめるようにした。
また、各階は階段室で区切られてしまい上下階の関係性が希薄になりがちである。そこで垂直方向に床を持ち上げたり階段状にしたりすることで、上下階が相互の空間に影響を与えながら繋がりが意識されるようになる。
天井高さの変化や床の段差により、小さな空間をさらに分節化するようにしていくつかの居場所を作った。
床はベンチであり、テーブルであり、ベッドでもある。それらの設えが人の行為を誘発することを期待した。
将来的には社会の変化に追従しながら、サスティナビリティを保持し続ける建築であることを願っている。

所在地:東京都新宿区

敷地面積:59.77㎡

建築面積:34.32m2

延床面積:150.63m2

主要構造:RC壁式構造 鋼管杭

規模:地上5階

施工:和田建築

写真:上田 宏

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